筑音が筑音になる前の、
当の本人ですら覚えてない過去の、
名もなき僕が壊れるお話。
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ゴロゴロゴロリ…
足元に転がってきたソレは、苦悶の表情を浮かべた顔で見上げていた。
少年はソレを、何の感情も感慨もなく見下ろす。
部屋の中に響くのは、耳障りな回転音と、空気を切り裂く悲鳴。
ドンッ
宙を舞った腕が体にぶつかり、落ちる。
吹き出す赤は、部屋を、少年を、紅く染め上げる。
その先で、上下に分かたれ崩れ落ちる肉塊。
冷めた瞳が捉えるのは、母だったモノの成れ果て。
なおも続く回転音。圧倒的な暴力の嵐は、止まらない。
次々とバラされる、兄弟と呼ばれたモノ達。
「ぁ……」
狂気と狂喜を帯びた視線が、少年へと向いた。
その目が、死を直感させる。
鮮血に濡れる兇器の回転数を上げ、恐怖心を煽るようにゆっくりと近付いてくる殺意。
――死ぬ?僕が?
目前に迫る死の事実。だが、少年にその実感は、ない。
――可笑しいね。だって僕は…生きてすらいないのに。
足元に転がる父だったモノの首と、母だったモノの腕を見下ろす。
名すら与えられず、誰にも何にもなる事を許されなかった少年。
そこには、生も死もなかった。
その身は動くというだけの人形。
ならば…今、その目に映る屍と何の違いがあるというのか。
――そう、だから僕は、これから壊されるだけ。
気づけば、大きな人影が少年の目の前を覆っていた。
つまらなそうなに、その手の凶刃を振るわんと腕が上げられる。
――あぁ、でも……
「…コレデラクニナレル…」
個である事を否定され、他である事を求められた。
そんな少年の、ほんの僅かに残された自我が搾り出した本音。
それだけが、救いであるかのように。
残忍な刃、それを握る手に力が込められるのを見とめ、少年は瞳を閉じた。
その口元に浮かべる穏やかな笑み。
――もう…いいよね。
そうして、少年は手放した。
薄っぺらでちっぽけだけれど、大切な“僕”を――